カルヴァン Jean Calvin (1509-1564)


ルターとならぶフランス、スイスの宗教改革者。カトリック勢力の迫害を受けてスイスのバーゼルに去り、大著『キリスト教綱要』を執筆。その後招へいを受けてストラスブールからジュネーブに赴き、内外の迫害の中、教会内部の規律の確立による教会の国家権力からの自立に尽力。国家や政治の働きはそれとして評価する一方、教会は神の意志の高き実現に向けられるべきことを説く理想は、その苛烈さがいわれなき「神政政治」(テオクラシー)の批判を受けるが、むしろ教会という精神領域に対する国家(実際には都市=ジュネーブ)の権力の介入と戦ったというのが、真実である。 

「綱要」(インスティテューチオinstitutio)とは教理問答(カテキスム)くらいの意味で、正しい秩序立ったキリスト教徒訓導の神学書を意味する。腐敗し混乱した時代から精神を断ち切り、根底から改革を築き上げる静かな気迫が感じられる書である。

コメント:

強い意志と並外れた力量の持ち主で、『綱要』の草稿を完成したのは弱冠25歳の年というから、まさに驚異的である。彼を以てピューリタニズムつまりプロテスタンティズムが始まり、ヨーロッパの精神革命が起こったことを考えれば、カルヴァンこそ近代の遂行者であった。このことは日本でも社会学者によりよくいわれるが、問題はその内容である。その神学とのつながりをうまく説明するのは神学の伝統のない日本ではことさらに難しく、カルヴァンなきカルヴィニズムの弊が全くないわけではない。