佐藤メモ

佐藤 仁


1. 学問の3分類

・「実践の論文の書き方」では、課題の規定、用いることのできる方法の選定、結果という順序が合理的に並んでいますが、実際には、逆の論理が働いていることが多いと思います。つまり、結論がすでにある(場合によっては、政治的理由で)、あるいは、用いたい技術がすでにあるといった場合です。こうした構造が、「ない問題を作る」力になっている側面も無視できないと思います。この考え方は「ゴミ箱モデル」と呼ばれ、経営学等で議論されているのはご承知の通りです。

・「フィールドサイエンスでは発見者の価値が読み込まれている」というのは、フィールドサイエンスに限らないと思います。むしろ、読み込まれていることが分かりにくい科学のほうが要注意だと思います。

・「感動を引き起こすような論文」は制作学に限らないと思いますが、理論の学問や実践の学問で、感動を喚起する論文の要件とはどのようなものか、考えてみたいと思います。

2. 国際環境協力という学問

・ 小澤先生と同じ感想で、学問というよりは対象であると思いますが、その対象に学問的にアプローチしようとしていることは間違いないと思いますので括弧をつけて「学問」でどうでしょうか。

・ 理論の論文なのか、実践の論文なのか、をあらかじめ区別することが重要である、との論点ですが、これはよくわかりません。限定することのマイナス面も考えられますので、分別をつけることの意義をもう少し展開してくださるとありがたいです。

3. 専門と学際

・ インターディシプリナリーは、単なる狭間の学ではなく、一段高次の概念に照らして、ディシプリンを再編成することだと思います。諸学の水平的なやりとりは、クロスディシプリン、あるいは、プルリディシプリン、マルチディシプリンという別概念があるようです。

・ 最後の「地味な修練」とは具体的にどのようなことでしょうか?

5. 批判するということ

・ ここでの「批判」についての検討は、「新しい知見」の提示と関係しているのだと思うのですが、いかがですか?論文審査会などでよく提示される「この論文の新しさはなにか」という問いと、この節を有機的に結びつけると分かりやすくなるような気がします。

・ グランドセオリーに対しては、その検証重視的態度に対する批判として出たグランデッドセオリー(データと理論生成重視)というものがあります。これについては佐藤の回で触れたいと思います。

・ アブダクションのアナロジーは私には少々わかりにくかったです。

小澤メモについて

・ 「研究速度」についての言及はとても重要だと思いました。開発援助研究の分野でも、80年代以降から「粗いが早い調査の方が、細かくても遅い調査よりはまし」であるという議論が一部で盛んになり、RRA(Rapid Rura1 Appraisal)等の手法が開発されてきました。教育学で盛んなアクションリサーチの系譜も、同じ問題意識で、小澤先生ご指摘の「学ぶサイクルを早める」努カの一貫です。理論と実践の対話を重んじるべき我がコースとしては、研究速度の問題を今後検討すべきだと思います。

その他、雑感

・ 途上国研究の分野では、しばしば科学的に正しくても実際の政策には「活かされない、使われない」調査研究や、場合によっては「無視される」ものも多いと思います。学問研究としての信頼性と妥当性が高ければそれでよいのか、実践への応用は政策エリートに任せるべきなのか。私個人は、使われる研究を戦略的に行なう必要性を感じていますが、これは「科学」の立場からはやや離れていくことも意味していると思います。松原先生はどうお考えですか?