ヒポクラテスの医学

『流行病』

熱の下り方(クリシス)

 トップページへ
 第1章概説へ


 夏から秋にかけて、多くの、持続的でさほど激しくない熱病が生じ、患者は長く病んだが、ほかの点では悩むことはなかった。多くのばあい、腸の状態は良好で、とくにいうに足るほどの障害はなかったからである。患者のほとんどにおいて、尿は良い色を呈し、透明であり、はじめは稀薄(きはく)であったが、ときがたって分利(クリシス)の時期になると熟した。咳は激しくなく、咳をしても苦痛がなかった。食欲不振もなく、食物を与えるのが容易であった。一般に病苦は軽く、肺癆患者のように発熱とともに悪寒戦慄(せんりつ)を示さず、わずかに発汗し、発熱発作はさまざまで不規則であった《概して休止期がなく、三日熱型の悪化を呈した》。分利は、最も短いばあいで20日目ころ、大部分は40日目ころに生じたが、80日目ころのものも少なくなかった。また、あるばあいにはこのようにではなく、不規則に分利もなしに去った。多数の患者においては、短期の休止期をおいて再び発熱し、前と同じ周期で分利した。多くのばあいは、病気が長びいて冬にまで及んだ。

 この気象状況において記載された疾患のうちで、肺癆だけが高い死亡率を示した。すべてほかの疾患は良性で、そのほかの発熱で死亡する者はなかった。