第5章 社会システム

 必要な社会科学の基礎知識(制作中)


ここはベルタランフィー(現代オーストリアの生物学者)の精神でゆきます。つまり、社会は、(1) 生きて(動いて)いるということ、また (2) 一般法則がある、ということです。人口の有名な「マルサスの法則」、またサイバネティックスなどはその好例でしょう。

環境を数理的に考えたい人はここは必須です。

なお、この章を数学入門と見ることもできます。そのキーワードとして

1 節 差分方程式・微分方程式
2 節 1, 2 階差分方程式、同微分方程式、収束解、発散解
3 節 連立微分方程式、安定条件
4 節 非線形性、均衡解の安定性、分岐理論
5 節 カオス、非周期性

を挙げておきましょう。とはいえ、微分方程式の解き方を解説したものではありません。念のため。

なお、希望に応じたア・ラ・カルトは、

ことばの定義を知りたい人なら 1
方程式を解きたいなら 1, 2
システム(多要素)まで進みたいなら 1, 2, 3
非線形性を知りたいなら 1, 2, 3, 4
カオスの例を知りたいなら 1, 2, 3, 4, 5

授業板書

の各節となります。文科系の人は最低限第 1 節はやって下さい。

LinkGuide.gif (947 バイト) レポート出題例, 練習問題


一般システム.jpg (2747 バイト) L.ベルタランフィー

今世紀オーストリアの生物学者。生物体の機能を研究しながら人間社会に対しても応用しうる「一般システム論」を着想、現代のシステム的考えの基を築いた一人。

ロトカ・ヴォルテラモデルの解曲線群

微分方程式の数値解法についてはこちら


5.1 動的システム

高校で親しんだ「数列」から、「動的システム」へ自然に入ります。

「増え方」「減り方」のルールなど、貯金や負債のわかりやすい日常例で理解して下さい。ここは「数列」の別名「差分方程式」の紹介も兼ねますが、わかりやすいと思います。

次に微分方程式に進みますが、これはあまり正面に出さず、群生物学のアナロジーで

  (a) 指数成長曲線  (b) 指数減衰曲線  (c) ロジスティック曲線

という応用の形で、優しく包んでおきました。おわかりでしょう。この3つの動的プロセスこそベルタランフィ−が「一般的」(general) とよんだ法則です。(c) などは飽和(環境容量)のある成長曲線として知られますし、こういう法則も環境科学の基本理念(持続可能な成長)として 知っておくとよいですね。

5.2 線形自律システム(一要素システム)

ここは、はっきり言って、解き方と解の説明です。収束解の場合と発散解の場合があること、できればその条件だけおさえて下さい。

5.3 相互作用システム(多要素システム)

ここは一言、昔より有名な、相互作用のシステムの2つ

(a) ロトカ・ヴォルテラのモデル(食物連鎖と共存)
(b) リチャードソンのモデル(軍備競争の(不)安定性)
    LinkGuide.gif (947 バイト) 米ソのデータ

で現象を楽しんでください。 これから自然に「連立微分方程式」の理論への興味が感じられれば幸いです。

5.4 自己秩序形成

まず「アトラクター」(必ずしも点でない均衡)を考えます。いいかえれば、動きながらも一定集合からはみださない。秩序ができるプロセスですね。しかも、何が秩序として選ばれるか、またパラメータ(外生的条件)により秩序の取り替えも起こる。これが分岐理論(バイファーケーション・セオリー)です。社会科学的意味はまだ十分ではありませんが、不思議ですね。偶然から秩序ができるという意味で、「秩序偶然原因論」といえるかも知りません。「アトラクター」は例から入って説明しています。

5.5 カオスの動学と複雑系

うまく散らばらせる、規則がないようにするということは結構むずかしいことですね。人間のやることは、どこかくせや規則がてきてしまうのです。ものごとの始まりを研究するには、こういうことのない理想状態を作ったり、考えたりすることが重要です。それが「カオス」です。

まず、カオスについて簡単に解説します。ここでは、よく出される例で「リー・ヨークのカオス」をあげ

  (イ)そのメカニズム  (ロ)「カオス」たる理由

を解説しました。(ロ)は「カオスの定義」だと思って下さい。正直これは難しいのですが、(すぐ)先を予測しにくくなる、ということです。たとえば3だけ(時間で)先とでも相関係数が0に近くなる、ということなら、わりと正確な言い方でしょう。よく「ランダム」といわれますが、私はこれ(自己相関係数が速く0になる)が良い定義と思っています。

カオスがカオスのままかというと、そこはいろいろなことが起こり得ます。そこで、多数の要素が集まったと考えてください。人間社会なら人とか企業など、生物集団なら個体、また物質なら粒子、原子・分子でいいでしょう。また、いくつかの種類がある場合もあります。いま

(a) 要素の数が多い、場合によっては極めて多い
(b) 近くの要素は互いにあるルールによって相互作用(たとえば、種類によっていろいろな程度に引き合う、反発しあう、そのほか)する

と仮定します。このとき(必ずではありませんが)ある偶然で突如一定のパターンや秩序ができ、全体が統一されることがよくあるものです。このような現象を「複雑性」といいます。こういう現象が自然科学でよく見られることは別に不思議ではありませんが、都市の生成、成長する経済圏(シリコン・バレーなど)の生成、後発経済の技術的な飛躍的成長、あるいは人種地域の発生などもあります。これら前者は最近、経済学者 Paul Krugman や Brian Arthur らによって研究され、「収穫逓増 (Increasing Return) の経済学」として体系化されつつあります。ここではレベルが高いのであまり解説していません。

Increasing.jpg (4703 バイト) 逆回り時計と複雑系

現在の時計の「時計周り」の向きは最初偶然でスタートし、最初そうなった以上経済性がこの方向に加速的に成長したものである。このような逆回りが初期に勝っていたら、全世界の時計はこの形式になっていたであろう。これを「経路依存」という。複雑系の経済学者ともいうべき B.アーサーの指摘による。

 


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