田中元首相 vs. 榎本秘書

実際の「囚人のジレンマ」 (1)

ロッキード裁判丸紅ルート第117回公判 (55年12月3日)記録より


ロッキード事件で田中角栄被告(元首相)は元秘書榎本敏夫被告と収賄罪(全日空のロッキード機購入に総理大臣の指示があり、5億円の対価が支払われたとの訴因)の主犯と共犯の関係にあった。榎本被告の法定供述は、田中被告が自供(自白)したかどうか彼は悩んだというものであったが、実際には、榎本被告の被告の自供の方が最初であった。


 土屋検事 「新聞を見て、田中先生がどう言っていると思ったんですか。」
 榎本被告人 「とにかくわからないんです。田中先生が言っているといわれてもわからないんで、検事さんに『私にも考える時間をください.関門をくぐんなくちゃ』といったんです。」
 土屋検事 「あなたは7月30日に(田中自供の新聞を見せられて)現金授受を自白したと述べましたが、実際は(逮捕翌日)7月28日に自白したんではありませんか。」
 榎本被告人 「そういうことはありません」
 土屋検事 「まちがいないですね。」
 榎本被告人 「ございません。」
 土屋検事 「7月28日に自白している検事調書を開示します。その上で次回即刻質問します」

  田中・榎本弁護団の顔が一瞬こわばる。傍聴席も緊張。土屋検事は“隠し玉”をなげつけ、サッと質問を打ち切る。(東京新聞報道)

  出典:『新版 意思決定の基礎』