不正な選挙制度

フランス三部会


かって、政治改革の一環である選挙制度改革が論議されたおり、小選挙区制のイギリスがさかんに範例としてとりあげられていた。NHK でもそうであった。だが、選挙区制度に限っていえば、世界の大勢が比例代表制であることを見ると、そこに世論操作のにおいをかぎつけた人は少なくなかったはずである。一般には、選挙制度に完全に理想的なものはないであろうが、不正な選挙制度によって支えられた体制の告発が政治革命を導いた歴史的事例は数え切れない。

旧制度(アンシャン・レジーム ancien régime)の下の不正な選挙制度例としては、フランスの例が典型的でわかりやすい。ふつう、フランス革命では「バスティーユ」襲撃、ジャコバン党独裁恐怖政治の暴力イメージがことさらに強調される。それよりも、当時の政治やその制度の質は当時の各階級の代表選出の方法と実情にかかわりがある。マチェ『フランス大革命・上』の第 3 章(岩波文庫)などを読むとためになる。3 つの階級のうち「第 3 階級」(新興市民階級)の告発と要求は次の 3 ケ条であった。

第 1 の要求 第 3 階級の代表者は真に第 3 階級に属する市民の中からのみ選出せらるべきこと
第 2 の要求 第 3 階級の代議士が 3 つの特権階級の代議士と同数であること
第 3 の最後の要求 三部会における票決は階級別によらず頭数によるべきこと

これは革命の指導原典シェイエス『第 3 階級とは何か』からのものだが、フルタイトル「第 3 階級とは何か? すべて Tout。今日まで何であったか? 零 Rien。何になろうとするか? 何ものかに Quelque Chose」は封建的特権階級 20 万人のために 2500 万人の国民(第 3 階級)が塗炭の滲苦を嘗める不合理を告発し、三部会への権利要求を掲げる。三部会とは 3 階級が一同に会するアッセンブリーで、極めてまれに(何十年に一度)しか開かれなかった。

第 3 の要求は一見したところでははっきりしないが、実は最もピタリとした要求であって、これがなければ、第 1、2 の要求は実現しても実質無意味となる。階級別に投票すれば多くの問題で決定は 2:1 となり 20 万人の意志が 2500 万人の意志を支配することとなる。2500 万人の意志が優先するためには投票法は是非とも頭数によらなければならない。代表原理は完全なものでなければならない。

もとより名前を書いて投票することで統治の実施者がきまること自体人類としてはまさに画期的であり、カンボジアの選挙監視員は「投票とは何か」から始めたという。数の数え方のルールは憲法秩序を左右する重大なものであり、その意味で政治には科学の領域がある。シェイエスの告発はより鋭い所をつく。

これによって明らかなように、各階級が協力して總意を構成すべきであるとして、その関係乃至は比率を研究しても無駄である。この意思は、もしひとが依然として三つの階級と三つの代表團とを残しておく限り、決して、單一のものにはなり得ない。その上、三つの議院は、恰も協調する三国民が同一の要求をもち得るように、同一の希望を抱いて結合し得る。しかし、三階級を以てしては決して單一國民、單一代表團と單一の共同意思とを構成することはできない。思うに、これらの眞理は確かに正しいが合理的に且つ政治的な公正性によって構成されていない議会にとっては極めて厄介な存在となるであろう。何をお望みですかね。あなたの家が何の趣味も計晝性もない不恰好な林立する柱で支えられているとすれば、また、壊れそうな箇所だけに柱を押しつけてあるとすれば、そんな家はすぐに建てなおされるがよい。

今日でも十分通じる警告である。第 1、2 階級が策を弄して自己に有利な比率を主張している姿が目にうかぶようである。