一例として技術 A, B を考えよう。双方の技術とも採用数が増えれば技術の世代(variants)が高進し、伴って収穫率(利益率)は増加するものとする。ビデオカセットレコーダーにおける VHS とベータの採用の競争を思いうかべればよい。採用者が多くなればなるほど、コストが逓減し、技術の世代は進み質も成熟し、それの製造者は利益率が高くなって行く。
双方の技術の利益率が採用者とともに次のように異なった速度であるとする。
0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 100 | ||
技術 A | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
技術 B | 4 | 7 | 10 | 13 | 16 | 19 | 22 | 25 | 28 | 31 | 34 |
最初の採用者は A を選択するであろう。ここからプロセスが始まる。次の採用者はますます A を採用して A の採用数は増加するが、採用数が 30 を越える範囲では B の方がよい。しかし、B の採用数はいまだ 0 であるから、利益率は 4 から開始せねばならず、30 以後も悪い方の技術 A の採用を続行せねばならない。
以上の例は収穫逓増の経済学における「硬直性」 inflexibility とか「経路依存」 path dependence といわれる現象である。よくない経路依存の例を出したが、飛躍的な地域経済成長(例:シリコン・バレー)の原理なども説明できる有望な理論である。
出典: W. Brian Arthur, Increasing Returns and Path Dependence in the Economy, USA : University of Michigan Press, 1994.