人種地域の発生

P.クルーグマンの『自己組織化の経済学』より ―― 「複雑系」のある一例


 碁盤目に配置された場所を 2 種類(色や種類)の人が占めるとしよう。

 次のルールをおく。

一人の隣がある場合   異なった色なら引越す
二人の隣がある場合   少なくとも一人は同じ色であってほしい
三から五人の隣がある場合   少なくとも二人は同じ色であってほしい
六から八人の隣がある場合   少なくとも三人は同じ色であってほしい

 図 1-2 (訳書 p. 32) は 60 人の居住パターンだが、このルールにきちんと合致している。問題はこのパターンが安定であるか、である。

図 1-2
   
   

 図 1-3 (p. 33) のようにランダムに 20 人を引き抜いて見る。すると「不満」を持った人が出てくる。そこである人が引っ越すと、そのことによりさらに他の不満を持つ者が出てくるから、連鎖反応が生じる。このプロセスはそういう人がいなくなるまで続く。

図 1-3
     
 
     
 
 
         
         

 最終的には図 1-4 (p. 34) に落ち着く。これを見てほしい。2 つの地域に分けられた秩序パターンがひとりでにできあがっている。このように、ミクロの近接相互作用がマクロな大域的空間秩序を決めてしまうことがある。これが「複雑系」の重要な一面である。

図 1-4
   
   
 
 
 
 
           
         

出典: Paul Krugman, The Self-Organizing Economy, Cambridge, MA : Blackwell Publishers, 1996. = 北村行伸・妹尾美起(訳)『自己組織化の経済学 ―― 経済秩序はいかに創発するか』東洋経済新報社、1997.