小選挙区制はコンドルセ勝者という点からも批判される。一般に相対多数決 relative majority は同じ批判を免れ難い。1983 年英国総選挙で中部イングランド、ランカシャー(州)ヒンドバーン小選挙区(Hyndburn, Lancashire)に起きた奇妙な事情をみよう。得票率(%)は
保守:42.2、労働:42.2、連合:14.6、エコロジー:0.6、無所属:0.4
で、議席は保守党が獲得した。ここで、世論調査から、
(1) 投票者の 4 % は、連合−労働−保守の順にランキングし、労働に戦略投票、
(2) 投票者の 4 % は、連合−保守−労働の順にランキングし、保守に戦略投票、
(3) 連合への投票者は、連合−保守−労働、連合−労働−保守が均等割合、
(4) すべての投票者は労働を"左"、連合を"中道"、保守を"右"と評価する。
i) したがって、左の投票者は、労働−連合−保守の順にランキングし、
ii) 右の投票者は、保守−連合−労働の順にランキングし、
iii) (3 党の)上記以外の投票者は、連合−保守−労働、連合−労働−保守のいずれかの順にランキングする。
(5) エコロジーへの投票者は保守党を最下位にランキングし、その他の党に対するランキングは分からない
(6) 無所属への投票者のランキングは分からない
と想定する。この想定に沿って再構成してみよう。
保 | 連 | 労 | 連 | 連 | 連 | ? | ? | |
連 | 保 | 連 | 労 | 労 | 保 | ? | ? | |
労 | 労 | 保 | 保 | 保 | 労 | 保 | ? | |
% | 38.2 | 4.0 | 38.2 | 4.0 | 7.3 | 7.3 | 0.6 | 0.4 |
これはショッキングである。この表から、労働は保守に勝ち、連合は保守に勝ち、また連合は労働にも勝っている。この小選挙区にはコンドルセ勝者がいてそれは連合、さらにコンドルセ敗者がいてそれは保守である。しかし、選挙は保守に議席を与え連合を 3 位においた。