トップは敗者

Paradox of Voting


各人の有する価値判断の社会全体の集計法として、「投票」votingはその一つである。ところが、各人が投票して最多数で決める誰も疑わない方法は時々困った結果を導く。いくつか研究があるが、フランスの数学者、教育家でシェイエスと同時代人コンドルセ(M. de Condorcet, 1743-1794)をあげよう。有名な「投票のパラドックス」paradox of voting を発見した。これがヒントになり今世紀「アロウの不可能性定理」が証明され「民主的決定は可能か」という根本問題が今日に投げかけられた。


彼コンドルセは 3 人の候補者から、投票で一人を選ぶという普通の選挙の方法が適当かどうかを吟味している。

[1]<トップは敗者>

候補者を A、B、C とする。60 人の投票者のうち、A が23票、B が19票、C が18票とったとする。そのとき、普通のやり方では A が選出される。この方法は必ずしも満足できるものではない。なぜなら、たとえば、A に投票した 23 人はすべて C が B より良いと考え、B に投票した 19 人はすべて C が A より良いと考え、そして C に投票した18 人中 16 人は B が A より良く、2 人は A が B より良いと考えていると仮定する。

そのとき、

選好 人数
A > C > B 23
B > C > A 19
C > B > A 16
C > A > B 2
  1. C に有利な 2 つの命題は、C が A より良い場合と C が B より良いという場合である。最初の場合は 37 対 23 で多数を得、第 2 の場合は 41 対 19 で多数を得る。

  2. B に有利な 2 つの命題は、B が A より良いという場合と B が C より良いという場合である。最初の場合は、35 対 25 で多数を得、第 2 の場合は 19 対 41 で少数となる。

  3. A に有利な 2 つの命題は、A が B より良いという場合と A が C より良いという場合である。最初の場合は、25 対 35 で少数であり、第 2 の場合は 23 対 37 で少数である。

比較 人数
A vs B 25 : 35
B vs C 19 : 41
C vs A 37 : 23

こうして、普通の投票では、もっとも得票の少ない C が、実は一番有利な立場にあり、最高得票者の A が実はもっとも不利であると結論された。

[2] <決定不能>

また、たとえば、A に 23 票、B に 19 票、C に 18 票、投票されたとしよう。そして、さらに、A に投票した 23 人はすべて C より B を良いとし、B に投票した 19 人のうち17 人は A より C を、2 人は C より A を良いとし、最後に C に投票した 18 人のうち 10 人は B より A を、8 人は A より B を選ぶと仮定する。

 

選好 人数
A > B > C 23
B > C > A 17
B > A > C 2
C > A > B 10
C > B > A 8

すると、全体として

  1. 33 対 27 で A は B より良く、

  2. 42 対 18 で B は C より良く、

  3. 35 対 25 で C は A より良い

比較 人数
A vs B 33 : 27
B vs C 42 : 18
C vs A 35 : 25

という結果が得られるが、これら 3 つの命題は相互に両立しない。

 

[1] の逆説は [2] よりもはっきりしている。[2] の場合は‘相互に両立しない’結果、何も決めらない。次に [1] について考えよう。C をそれ以外のそれぞれと(A あるいは B と)対比すると常に C がよい。このような C をコンドルセ勝者 Cordorcet winner という。いわば総当たり全勝者であるが、[1] はコンドルセ勝者を選んでいない。