戦史研究に対する筆者の見解


個々の場所における戦争の適切・不適切にかかわらず、戦争全体の総括の問題があることに注意すること。特に太平洋戦争はその原因、戦争責任の全体像その他重要問題につき、戦後 50 年を経た今もあの戦争とは何であったのか総括がなされておらず、歴史から教訓を学ばない人々の愚かな発言がいまだに聞かれる。はなはだ残念である。戦史の数理的分析は、相対的にはそれとは切り離して議論できる部分が多いが、その解釈は十分に深い考慮が必要であることをここに注意しておきたい。

そもそも「戦史」はふつうわれわれがいう「歴史」たりうるか、という根本的な問題さえある。これは相当に難しい。もし、歴史であるというなら、どんな意味でそうなのかと根拠を示さねばならない。その重大性を考えれば、思慮深い人は決して軽々に結論を全体の戦争に拡大したり一般化したりしないであろう。いわゆる通俗「戦略論」の横行に対しても同様のことを注意せねばならないであろう。

さらに、戦争はとどのつまり人間の生命を失わせ損う行為であるから、どのような分析でも、倫理的自覚や反省を覚えずに行うことはできないはずである。この点で冷淡になる人がいるならば、その人は賢くなるどころか、却って人間として愚かになるのであって、最初から分析などしない方がその人のためである。

内容に内在的批判を含む戦史として、やや専門的であるが、高木惣吉『太平洋海戦史』(改訂版)岩波新書をあげておきたい。


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