民主党における都市対農村の構図

我が国政治の「パンドラの箱」

サポーター票の統計的分析


民主党はイデオロギー幅の広い政党である。それは代表選挙に出た 4 人の候補者の顔ぶれをみればよく理解される。

  横路孝弘   旧総評系を支持基盤とする党内左派
  菅直人   市民運動を基盤に政界に出た左寄り民権派
  鳩山由起夫   ノンポリだが旧同盟系から支持を受ける右寄り保守派
  野田佳彦   千葉を選挙区にする若手の保守国権派

これを自民党総裁選挙における候補者の政治的立場の差と比べれば、一段とその意味がはっきりする。野党として、イデオロギー分布がここまで広く右から左までに渡れば、与党との政治的な対決のスタンスもそれだけ弱まるであろう。一般論としては、イデオロギー幅が広いことは、政策の一貫性さえ損なわれなければ、有権者の支持を調達する上ではむしろ有利に働くというメリットもある。しかし、これは一般論でありまた一定範囲内での話である。安全保障で党内が割れるなど、メリットが有利に働き得ないような「イデオロギー分裂」はよく指摘され、政権与党からしばしばその弱点をつかれてきた。

本論はそれをあらためてとりあげようといのではない。その趣旨は、民主党のこのイデオロギーの広さは、民主党そのものを越えて、また違った重要な意味をもつということにある。このイデオロギー幅は、見えないところで、日本の今後の社会・政治・経済の上で本質的な問題と複雑に絡んでいる。自らは都市型政治家である菅直人はしばしば「我が国の構造的問題を絶対に都市対農村の対立でとらえてはならない」という。これは鋭い。この構造問題は他の政党にとっても等しく極めて大きな課題であり、重要性から見て我が国のタブーないしは「パンドラの箱」といえよう。たしかに、県別民主党サポーターのデータに見る民主党のイデオロギー分析(政治地理的視角からの統計分析)をしてみると、民主党がその問題のまっただ中にあることがすいてみえるのである。それを見てみよう。

4 人の候補者の得票分布から、民主党の全国のイデオロギー分布は、中道からやや右に寄ったところ、いわば、菅と鳩山を加えて 2 で割った点からやや鳩山よりにある。これは平均的にはという意味である。このイデオロギー分布は何かというと、特殊化係数からわかるように、ほぼ埼玉県(0.030)、神奈川県(0.073)、滋賀県(0.072)の分布になっている。しかも、関東の中心東京では菅が特化係数が 1.73 とぬきんでており、鳩山はこれより低く、横路はさらに低い。要するに、民主党の平均イメージとして、大都市近郊型サラリーマン(ホワイト・カラー)の政治意識と行動に、従来の革新色とは別の市民運動的要素を加味したものという民主党の一つの顔がここにある。(なお、千葉の野田佳彦は松下政経塾出身の若手であるが、世代差、首都圏に於ける千葉県の多少の特殊性および、これはそれ自体研究に値すると思われるが、高度成長期にルーツをもつ「松下政経塾」のもつ政治的イデオロギーの意味あいなどから、別の機会に論じることとしよう。)

鳩山が見せている顔は別である。鳩山の特化係数をみると、関東では概して菅に劣り、関西でほぼ互角である。鳩山は菅ほどには都市型政治家ではないのである。ただし、これは鳩山がこれら地域では全国的ほどには得票していないという意味であって、「鳩山党」といわれるごとくむしろ農村部を含む全国ではまんべんなく得票している。実際、鳩山と菅の特化係数のばらつきを標準偏差でみると、鳩山(0.438)のほうが菅(0.584)より小さく、比較的に安定している。これは従来の自民党の包括的な安定性を思わせる一方、それでこそ農村部の自民党にあきたらない(一定範囲内で)投票者を吸収しているという仮説も成立する。ただし、安定はしているものの、「鳩山党」の鳩山にはこれという政治理念がない。それが最大の問題であるというよりも、ないところへ大都市党の性格が乗ったあいまいさと二重性の克服こそ、民主党の今後の課題であろう。


注) 地域統計学の 2 つの重要指標

注) 統計分析は参照用、教育・研究用に印刷用指定になっています。

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