アルキメデス

ギリシア5大叡智の1人

 トップページへ
 第1章概説へ


牛の問題

アルキメデスが発見し、アレクサンドリアにおいてこのような題目の研究に携わっている人びとにあてたエピグラムという形をとって、キュレネのエラトステネスあての手紙に入れて送ってきたところの問題。

おお盟邦の友よ、ヘリオスの牛の群れを算(かぞ)え給え
もし君が綿密で知恵をもっているならば。
昔あるとき、シケリアの島のトリナキエの野に幾頭の
牛が草を食(は)んでいたのか、
毛色を異にする四つの群れに分かれ
一つは乳白色に
別の群れは黒色に輝き、
ほかの一つは黄、もう一つは斑色(まだらいろ)。
おのおのの群れの牡牛(おうし)は多さにおいて勝(まさ)り
こういう割合になっていた−
白いのは、黒牡牛の半ばと三分の一とに
黄なのを合わせた総和に等しく、おお盟邦の友よ、
黒いのそれ自体は、斑色の四分の一と五分の一とに
黄なのを加えた全体に等しいと思い給え。
残るところの斑色のは、白牡牛の
六分の一と七分の一とに
黄なのを加えた全体に等しいとみなし総え。
つぎに、牝牛(めうし)についてはこうなっていた−
白いのは、黒の群れの総和の
三分の一と四分の一とにきっかり等しく、
黒いのそれ自体は、斑の牝牛が
牡牛もろとも牧場にいったとき、その全体の四分の一
と五分の一との和に等しかった、
黄の群れの五分の一と六分の一との和に
等数の多さを、四色斑の牝牛はもっていた。
そして、黄なのは、白の群れの三分の一の半ばと七分
の一とに等しいと数えられた。
盟邦の友なる君よ、ヘリオスの牛は幾頭たるか、正確
にいい給え、
よく肥えた牡牛の数を、
また牝牛は幾頭なのかを、おのおのの色について別べ
つに。
君は数について不案内だとか苦手だとかといわれたく
はあるまいが、
これっぽっちではまだなかなかに知恵者の数にははい
らないのだ。
さあ、示し給え、ヘリオスの牛がまた
こういう性質をすべてもつように−
白い牡牛がその頭数を黒いのに混ぜ合わせたとき、
奥行きも幅も等しい長さ(正方形)に
ぎっしりと居並び
四方八方にさしも広いトリナキエの野も
その頭数で埋め尽くされてしまったという。
また、黄のが斑のと一つ塊(かたまり)に集まったときには、
その数が一からはじまってしだいにふえ
ちょうど三角数を形づくったときのような形に居並ん
だ−
ほかの色の牡牛が加わることもなく、また余ることも
なしに。
おお、盟邦の友よ、もし君がこれらの条件を同時に満
たすように発見できるなら
これらを心の中で結び合わせてすべての測度を示すこ
 とができるなら
勝利を占めて誇ろうではないか、
そして、君がこの種の知恵にかけて完璧(かんぺき)であると判定
されるにいたるのをみようではないか。

 ワーズワースが『序曲』第10巻の終わり近く、「山に生まれ、羊飼いのあいだで育った私は/ごく幼い小学生のころから、シチリアを夢みるのが/大好きだった。……」といい、この島の生んだ著名な人として、「哲学者ないし詩人の、あのエンペドクレスとか/深く静かな魂の持主、アルキメデス!とか/それに、ああテオクリトスよ、……」(国文社、昭43)と歌っているように、アルキメデスにやや先だって、同じくシュラクサイから最初の牧歌詩人テオクリトスが出ているが、この詩でつづられた「問題」は、牧歌の故郷から大都市アレクサンドリア在住の数学者たちに贈るにふさわしいものであったのである。

さて、白、黒、黄、斑の牡牛と牝牛との頭数をそれぞれ、W、w、B、b、Y、y、D、dであらわすなら、与えられた条件は、

W=(1/2+1/3)B+Y                              (1)
B=(1/4+1/5)D+Y                              (2)
D=(1/6+1/7)W+Y                              (3)
w=(1/3+1/4)(B+b)                             (4)
b=(1/4+1/5)(D+d)                             (5)
d=(1/5+1/6)(Y+y)                              (6)
y=(1/6+1/7)(W+w)                             (7)
W+B=p2      (平方数)                         (8)
Y+D=q(q+1)/2 (三角数)                         (9)

となる。以下略すが、これらの解は極めて大きい桁数の数となる。