ヒポクラテスの医学

『予後』

診断よりは予後を重視

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 第1章概説へ


 医師にとって最も重要なのは予見の術を身につけることであると思われる。医師が患者の病床にあって、その現在、過去および将来の病状を予知・予告し、また患者のいい残した詳細を補充するならば、彼は患者の状態をよく了解する者として信頼され、人びとはためらうことなく彼に治療をゆだねるであろう。さらに、もし彼が現在の症状から今後の経過をあらかじめ知ることができれば、最善の治療を行ないうるであろう。

 さて、すべての患者を癒(いや)すことはできない。それができれば、将来を予知することよりよいことにちがいない。けれども事実、人びとは死亡する。病が重いため医師を呼ぶ前に死ぬ者もあれば、医師がきてすぐに−1日生きる者、またはそれより少々長く生きる者もあるけれども−、それぞれの疾病に対抗する術をふるう前に死ぬ者もある。したがって、このような疾病の性質を知り、それが人の体力よりもどの程度強いのか《同時に、疾病のうちに何か神的なものが存在するかいなか》、またその疾病の経過をいかに予測すべきかを学ばなければならない。こうしてこそ正当な名声を博し、名医となりえよう。回復しうる患者に対し、あらゆる事故を前々から予測しているばあいには、それだけ彼らを守ることができるわけであるし、死すべき患者と回復しうる患者とを予知して予告するならば、医師は非難されることはないであろう。