アリストテレス『修辞学』

アリストテレスの「幸福」の定義.

人となり、所有物、評価.

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 第3章概説へ


幸福の定義

 それでは、幸福とは、(1)徳を伴ったよき生、或いは、(2)生活が自足的であること、或いは、(3)安定性のある最も快適な生、或いは、(4)財産が豊かで身体も恵まれた状態にあり、それらを維持し、働かせる能力があること、としよう。というのは、これらのことの一つ、もしくは一つ以上が幸福であるということは、ほとんどすべての人々に認められているからである。

(第1巻第5章)

よいことの明白なもの

 よいものを一つ一つ列挙するなら、よいものとは次のようなものでなければならない。

 幸福。なぜなら、幸福はそれ自体として望ましいし、自足的であって、それを目的としてわれわれは多くのものを選ぶからである。

 正義、勇気、節制、寛大、鷹揚[おうよう−何物もおそれずゆったりしていること]、その他この種の持味。なぜなら、それらは精神の徳(優秀性)であるから。

 健康、美しさ、およびその類いのもの。なぜなら、それらは身体の徳であって、多くのよいものを生み出すからである。例えば、健康が快楽と生を生み出すというのがそうである。それゆえ、健康は最もよいものと考えられている。つまり、それは多くの人々が最も大事に思っているものを二つ、すなわち、快楽と生を生み出す原因をなしているからである。

 富。なぜなら、それは所有における優秀性であり、多くのよいものを生み出すことができるから。

 友と友情。なぜなら、友はそれ自体として望ましいものであるし、また多くのよいものをもたらすから。

 名誉、名声。なぜなら、それらは快いものであって、多くのよいものを生み出すし、それに、それらは、ほとんどの場合、尊敬のもととなる美点を相手の人々が実際に持っているがゆえの結果であるから。

 語る能力と行動する能力。なぜなら、このような能力はすべて、よいものを生み出すから。

 さらに、恵まれた素質、記憶力、理解のよさ、鋭敏さ、およびこの種の性質すべて。なぜなら、これらの能力はよいものをもたらすから。

 すべての知識・技術も同様である。また、生きることもそうである。なぜなら、他にはよいものを何一つ伴わないとしても、それ自体として望ましいからである。

 それから、正しさ。なぜなら、それは国家公共に益をもたらすものだから。

 以上が大体、一般に認められているよいものと言ってよいであろう。

(第1巻第6章)

・[ ]内引用者