チルチル
おもしろそうにして、たくさんのごちそうを食べているあのふとった人たち、いったいだれなの?
光
あれはね、人間の目で見ることのできる、この世で「一番ふとりかえった幸福」たちですよ。もしかすると、青い鳥はあの人たちの中に、ほんのちょっとの間、紛れ込んでるということだってあるかもしれませんからね。だから、まだダイヤモンドを回してはいけないのよ。まあ、始めにざっと広間のこちらの方をさがしてみましょう。
チルチル
あの人たちのそばへ行ってもいいの?
光
かまいませんとも。あの人たちは下品で、育ちは悪いけれども、悪い人間じゃありませんからね。
ミチル
なんてきれいなお菓子でしょう。
イヌ
それに、けものの肉も、腸詰めも、子ヒツジの足も、子ウシの肝(きも)もある。(叫んで)なんていったって、世界中で子ウシの肝よりおいしくって、すばらしいものはないからなあ。
パン
上等の粉で作った四斤パンをのぞけばね。なんてすばらしいんだ。うまそうだなあ。立派だなあ。わしよりもよっぽど大きいや。
砂糖
ええ、ごめんなさいよ。まっぴらごめんください。わたしはなにもみなさんの鼻をへし折ろうなどとは思いませんがね。でも、みなさんはあの砂糖菓子を忘れていはしませんか。テーブルの上で一番立派で、あえて表現しますならば、この広間にあるもの、いや世界中にありとあらゆるものにもまさって、輝きと華麗さをそなえているあの砂糖菓子をね。
チルチル
みんな満足しきって、幸福そうだなあ。あ、叫んでる。笑ってる。今度は歌ってるぞ。それにあの人たちこっちを見たようだな。
(12人いる「一番ふとりかえった幸福」たちは、テーブルから立ち上って、大きな腹をかかえながら、たいぎそうに子供たちのいる方へ進み出てくる)
光
こわがらなくてもいいのよ。みんなとても愛想のいい人たちだからね。たぶん、あなたたちをごちそうに招待するのでしょう。でも、それを受けてはいけませんよ。あなたたちの大切な用事を忘れてしまうといけませんからね。
チルチル
どうして?小さたお菓子1つでもいけないの?あんなにできたてで、お砂糖のころもがかかって、おいしそうなのに、それに砂糖づけのくだものや、クリームがあんなにどっさりのってるのに。
光
あれは危険なのですよ。あなたの意志をくじいてしまうのよ。人間はしなければならない義務があるときには、なにかを犠牲にしなければならないのだということを知らねばなりません。ていねいに、しかしきっぱりと断りなさい、そら、きましたよ。
ふとりかえった幸福
(チルチルに手を差し出して)チルチルさん、こんにちは。
チルチル
(驚いて)あなた、ぼくを知ってるの?あなたどなたですか?
ふとりかえった幸福
わたしは「幸福」の中でも一番ふとった「お金持である幸福」です。わたしはきょうだいたちを代表して、あなたとあなたの御家族を、わたしたちの終りのない饗宴(きょうえん)に御招待しようと思ってまいりました。あなたはこの世で本当の、「ふとりかえった幸福」の中でもことにすぐれたものたちと同席することになりましょう。失礼ですが、その中のおもだったものたちを御紹介いたしましょう。これがわたしのむこの「地所持である幸福」です。ナシのようなおなかをしております。これが「虚栄に満ち足りた幸福」で、このようにまるまるとふくれかえった顔をしております。(「虚栄に満ち足りた幸福」はえらそうにうなずく)それからこれは、「かわかないのに飲む幸福」と、「ひもじくないのに食べる幸福」で、ふたりとも足はマカロニなんです。(ふたりはよろよろしながらあいさつする)これは「なにも知らない幸福」で、カレイみたいにつんぼだし、これは「もののわからない幸福」で、モグラみたいに盲なんです。こちらは「なにもしない幸福」に、それから「眠りすぎる幸福」で、どちらも手はパンきれですし、目はモモの実のゼリーでできてるんです。それからおしまいは、「ふとった大笑い」で、口は耳までさけておりますし、これにかかってはだれでも笑い出さずにはいられないのです。(「ふとった大笑い」は、おかしそうにからだをねじまげながらおじぎする)
チルチル
(少し離れて立っているひとりの「幸福」を指差して)向こうの方に後むきに立ってる人はだれですか?
ふとりかえった幸福
気にしなくていいんです。あれは少々変りもので、子供さんたちには御紹介いたしかねるやつですから。(チルチルの両手をつかんで)さあ、いらっしゃい。また宴会がはじまるところですよ。朝からこれでもう12回目だ。みんな、ただもうあなたたちを待ってたんです。ほら、みんなが大声であなたを呼んでるのが聞こえるでしょう?みんなをお引き合わせすることなんてとてもできません。それはたくさんいるんですから。(ふたりの子供たちの方へ手を差し出して)さあ、どうそお客様の席へ御案内します。」
チルチル
ほんとにありがとうございます。「ふとりかえった幸福」さん。でも残念なことに、今ちょっとだめなんです。ぼくたちとても急いでるもんですから。ぼくたち青い鳥をさがしてるんです。 それがどこにいるかあなた方御存じないでしょうね?
ふとりかえった幸福
青い鳥ですって?ええと、お待ちなさいよ。ああ、ああ、思い出した。だれかがいつかそんなことを話してましたっけ。その鳥はなんでも、食べられない鳥だっていうことです。とにかくわれわれのテーブルにあらわれたことは一度もありませんからね。だから、たいして尊重されるものじゃないと思いますよ。でも、気にする必要はありません。ほかにいいものがたくさんおるんですから。まあ、われわれのしていることをよくごらんなさい。
チルチル
あなたたちどんなことするの?
ふとりかえった幸福
われわれはなんにもしないことで始終忙しいのさ。ほんとに一分だって休む暇がないぐらいなんですからね。飲んだり、食べたり、眠ったりしなければいけないし、いつだって、ただもう夢中なんですよ。
チルチル
それがおもしろいの?
ふとりかえった幸福
そうですとも、おもしろくなくってどうしますか。この世には、ほかのものはないんですから。
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・ 役内段落引用者