母の愛
あの人、だれなの?
チルチル
「光」だよ。
母の愛
わたしはまだ会ったことがなかった。あの人はとても親切で、お前をかわいがってくれるということは聞いていたけれど。でも、どうして顔を隠しているの?顔を見せることはないのかい?
チルチル
いいえ、あんまりはっきり見えると、「幸福」たちがこわがるだろうって心配してるんだよ。
母の愛
じゃ、わたしたちはみんなあの人を待ってるんだってことを知らないんだねえ。(ほかの「大きな喜び」たちを呼びながら)きょうだいたち、いらっしゃい。いらっしゃい。みんな、早くいらっしゃいよ。「光」がとうとう、わたしたちのところにきてくれましたよ。
(「大きな喜び」たちの中にざわめきが起り、みんな近寄ってくる。「光がきた。光だ。光だ」という叫び声)
もののわかる喜び
(みんなを押しわけてきて「光」にキスする)あなたが「光」なんですね。わたしたちちっとも知りませんでした。ここで、わたしたちはなん年も、なん年も、あなたをお待ちしてたんですよ。あなた、わたしがおわかりになって?わたしは「もののわかる喜び」です。ほんとに長いことあなたをさがしてたんです。わたしたち、それは幸福ですけど、わたしたち以上のものは見えないんですもの。
正義である喜び
(代わって「光」にキスして)わたしがだれだかおわかりですか?わたしは「正義である喜び」です。これまでたくさんの祈りをあなたに捧げてきました。わたしたち、とても幸福なんですが、でも、自分たちの影以外のものは見えないのですもの。
美しいものを見る喜び
(同じように「光」にキスして)わたしがおわかりになる?わたしは「美しいものを見る喜び」で、あなたをとても好きでした。わたしたち、幸福なんですが、でも、わたしたちの夢以上のものは見えないんですもの。
もののわかる喜び
さあ、さあ、おねえさま。もう待ちきれませんわ。わたしたちは十分強くもあるし、純粋でもあるんです。だから、まだ最後の真実、最後の幸福を隠しているそのヴェールをおとりなさいな。ごらんなさい。きょうだいたちはみんな、あなたの足元にひざまずいておりますよ。あなたはわたしたちの女王様、わたしたちをほめてくださるかたなんですもの。
光
(ヴェールを一そう強く引き寄せて)きょうだいたち、美しいきょうだいたち、わたしは主[しゅ]のいいつけに従わねばなりません。ときはまだこないのです。 でも、今にきっとくるでしょう。 そしたら、わたしはもう恐れも陰もなしに帰ってまいりましょう。 さようなら。 さあ、立ち上って、もう一度キスしましょう。やっとめぐり会えたきょうだいたちのようにね。 やがておとずれる日を待ちながら。
母の愛
(「光」にキスして)あなたはわたしの小さい子たちにとても親切でしたのね。
光
わたしは愛し合うものたちにはいつでも親切なのですわ。
もののわかる喜び
(「光」に近づいて)わたしのひたいに最後のキスをしてくださいな。
(ふたりは長い間抱き合っている。そして、ふたりが離れて顔を上げたのを見ると、目に涙がうかんでいる)
チルチル
(驚いて)あなたたち、どうして泣いてるの?(ほかの「喜び」たちを見回して)おや、みんな泣いてるの?どうしてみんな、目にいっぱい涙をためてるの?
光
黙って、ね、いい子だから。
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